サンドロ・デル=プレーテの錯覚アート 天才はエッシャーだけではなかった!

遠くに橋が伸びていたはずなのに、その柱は1番手前に!

サンドロ・デル=プレーテ(Sandro Del=Prete, 1937〜)という画家は、遠近法に従って描いた絵の中に、敢えて現実ではあり得ない線を描くことで、景色の中に不可能な現象が入り混じるという、不可思議な絵を生み出します。


引用: https://im-possible.info/english/art/delprete/the-master-of-illusions/153.html

現実世界を疑わせる絵
彼は不思議な絵を描くとき、いつも「目がどうやってものが見えるようにしているのか」考え続けているのだそうです。
私たちは視覚で物の色や形、サイズを知りますが、それが間違っていることもあります。だからこそ、
「世界は本当に私たちが見ているようなものなのだろうか? もし4つの目をもっていたら世界はどのように見えるだろうか?」という考えが頭を離れないと言います。
彼の作品はM.C.エッシャーの作品の影響が色濃く見られますが、描きたい物もスタイルも、全く同じというわけではないようです。
視覚的な現象を利用してありえない現実を描く点では共通していますが、数学的に正確なエッシャーの絵に対して、デル=プレーテの絵はより美学的なのです。
「私は魅力的で、 ときにはユーモラスな特徴をもつ美学的に美しい作品を創造しようとしています。 見る人は私の作品には、エッシャーの作品に常に存在している数学的な正確さは、ほとんど見出せないでしょう。」

出自
スイスのベルンで生まれ、スイスの学校で商業学科を卒業しますが、素描と絵が大好きでした。23歳になってから
フィレンツェ美術学校に通い、宗教的で意味深な絵を描き始めたのです。その後は家族を養うため保険関連の仕事をする傍ら、売ることもせず趣味で絵を描いていたといいます。
それ以降も飽きることなく絵を描き続け、1960年代のイラストは既に、現在の幻想的な絵に近い物だったようです。

イラスト: artrat.hatenablog.com

この頃、目を片方ずつ動かせるカメレオンの目を観察するうちに
“動物は実際には何を見ているのだろうか、その小さな世界からどんな像を得ているのだろうか”という疑問を持ち、それが遠近法を歪めたような絵を描くきっかけとなったそうです。
デル=プレーテは、異なる視点から見たような景色を描き始めました窓の左側は確かに下から見上げたときの形なのに、右側は上から見下ろした時の形になっています。
遠近法で正確に描かれた部分をうまく繋ぎ合わせることで目をだます手法はエッシャーと共通するものです。
この二重の遠近法を利用する手法は、このような絵を始めた頃の作品 「窓から見つめる」(1961年)、それを極めた数年後の「折れ曲がったチェスセット」にもよく現れています。

身を結んだ努力
彼の錯覚アートへの情熱は一気に実を結びました、
1981年に初めて出版した、鉛筆で描いた素描の画集”Illusorismen”は人気を博し、1987年に2回目の”Illusoria”、2007年には3冊目の画集を出版するに至りました。

https://www.amazon.com/Illusorismen-Illusorismes-Illusorisms-Sandro-Del-Prete/dp/B004TU3V6M


https://www.amazon.com/Illusoria-Sandro-Del-Prete/dp/3716505919

1984年には、チューリヒで「フェノメナ・ショー」という展覧会を開いてからは、妻の助けで絵にすべての時間を割くようになります。
絵と向き合う時間が増えた彼は、イッティゲンに錯覚アートで溢れるギャラリー”Illusoria-Land” を建てました。

※2004年、ヘッティスヴィル・バイ・ヒンデルバンクのレストランKreuzに移動。


https://m.youtube.com/watch?v=M1Jx6upAfUgスクリーンショット


M.C.エッシャーと似通った技術とはいえ、その不可能でありながら芸術的な絵は、彼自身のスキルであると評価されています。
趣味で絵を描き続けた彼の不可能な絵は、現実と幻の境界をあいまいにし、見る度に子ども心に帰らせてくれますね。

参照

アル・セッケル(2008] 錯視芸術の巨匠たち - 世界のだまし絵作家20人の 傑作集 - pp.47〜pp.49
"Katalog der Deutschen Nationalbibliothek". Catalog of the German National Library.