アルチンボルドの生涯は?意外な出身、作品の解説も!

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画像1. ジュゼッペ・アルチンボルド(1590-1591) ウェルトゥムヌスとしての皇帝ルドルフ2世


果物や魚、植物の絵…かと思いきや人間の顔!ジュゼッペ・アルチンボルドはそんな絵を、16世紀イタリアで描いていた変わり者です。

実はデザイナーのキャリアも持ち、皇帝にも気に入られていた宮廷画家でした。

優秀な彼ですが、宮廷にいるのに貴族を批判した疑惑も…。

そんな逸話もふくめ、ジュゼッペ・アルチンボルドという人物と作品をさくっと紹介!

 

じつはお坊ちゃん

ジュゼッペ・アルチンボルド/ Giuseppe Arcimboldo (1527 - 1593)

後に宮廷画家となったアルチンボルドは有力な一族の出身でした。父のビアッジオ(c.1518-c.1551)は宮廷画家ではありませんでしたが、公認の画家でありドゥオーモのファブリカ(ミラノ大聖堂建設の監督を担う組織)のための作品を描いた画家でした。親子2人で共作も描いたと言います。

人生のほとんどをハプスブルクに仕えたため、生まれたのはミラノですが、作品はほぼハプスブルクで描かれたものたちです。[2]

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画像2.ベルナルディーノ・ルイーニ (1490-1533)ビアッジオの肖像画

 
 
順風満帆デビュー

地位の高い一族の縁もあり、かのダ・ヴィンチの主要な弟子たちと美術を学んだあとは21-22歳の若い頃からステンドグラスのデザインを始めました。ミラノ大聖堂のステンドグラスのデザインも手掛けたといいます。31歳のときにコモ大聖堂のタペストリーのための下書きを務めた『聖母の御眠り』は、今もなお目にすることができます。[2]

順調にキャリアを積んでいた事は分かるのですが、これらのデザインに、あの有名な肖像画のような独特さは見えないというから驚きです。[3]

《聖母の御眠り》( Dormition of the Virgin) 1558年 アルチンボルド下絵 タペストリー423 x 470 cm, コモ大聖堂

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画像3.ジュゼッペ・アルチンボルド下絵(1558)聖母の御眠り

 

アルチンボルドの職業は?

1567年、35歳のころにはハブスブルグ皇帝フェルディナンド1世につかえる宮廷画家になりました。

そこでは宮廷の人々の肖像画、美術品のカタログ作り、パーティーのデザインなど、芸術分野とは言え様々な仕事を担当していました。

宮廷に仕えたこの頃に、植物などを組み合てたような肖像画を描き始めました。四季というシリーズもそのひとつです。[3]

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画像4.ジュゼッペ・アルチンボルド.1563. 四季

 

意味のある動物チョイス

この四大元素というシリーズは大気、火、大地、水という文字通り自然の四元素を主題としたものですが、ここでも騙し絵スキルを発揮しています。

 https://www.futilitycloset.com/wp-content/uploads/2010/09/2010-09-20-essential-characters.jpg

ttp://commons.wikimedia.org/wiki/File:Arcimboldo_Aire.jpg

 

顔を構成しているものは面白さだけを追求しただけでなく、人物のイメージと繋がる物を選んでいます[3] 。鳥が組み合わさった「大気」に描かれた鷲と孔雀はハプスブルク王朝の象徴です。

薪や武器からできた「火」でら胴体の上の二つ頭の鷲は神聖ローマ帝国を象徴し、二つの大砲はトルコ軍との戦いにおけるハプスブルク軍の強さを連想させるものでした。

陸の動物でできた「大地」のライオンと羊もまた、ハプスブルクの王朝のシンボルとなっています。

アルチンボルドパトロン(画家の支援者)である宮廷の人々を喜ばせ、絵とハプスブルクとの永遠の絆を願ってこれらのシンボルたちを取り入れました。

 


注目すべきはこれだけではありません。動物園や写真がある今ならまだしも、16世紀という昔に、こんなに沢山の動物をどうやってリアルに描けたのか、不思議ではありませんか?

外国や地域の動物たちをこんなにも詳細に描けたのはプラハという街のおかげでした。当時のプラハには象やライオンなど、世界中の動物たちが集められ、文化の中心となっていたのです。

アルチンボルドも本物のライオンを見つめながら描いたのでしょうか。描かれたものから時代背景が伺えるのも面白いですね。

 

戦争で失われた絵

そのシリーズを最初に公にしたのは1569年で、年初めに皇帝マクシミリアン2世に公式に捧げました。

残念ながらプラハの包囲戦の影響で破壊されたり、スクェン人の戦利品として持ち去られてしまったりと残っている作品は多くありません。

しかしこのシリーズは生前かなりの人気を博したことは、似た肖像画もいくつも残す事からも分かります。[3]

 

宮廷画家なのに貴族を批判?

 司書("The Librarian")という肖像画では、学習室のためのカーテンや、掃除に使われた動物のしっぽなど、その時期の本の文化を象徴する物たちで構成されています。wiki[5]しかしその絵は公開されると、本の文化に親しみのあった学者たちの中には、その絵は学者をバカにしているではないか、という人たちもいました。f:id:artrat:20210330230354j:image画像5.ジュゼッペ・アルチンボルド(1566)司書 97x71cm

 じつはその非難は真実で、裕福な人々のとある習慣を咎めるという意図も隠されていました。

この司書、持っている本をひとつを除いて全て閉じていますよね。しかも、その一つは頭の上で、自分じゃどうやっても見えない位置…。

具体的な批判は見つけられず、これは作者の憶測ですが、違和感の一つはここではないでしょうか。

当時の裕福な人々のなかには美術品などの代わりに本をコレクションする人々も居たようです。本を買えない人もいる中、その知識を無駄にしている人々をよく思わなかったのかもしれません。本を公開せず、読むというよりもコレクションにする目的で買っていた裕福な人を批判した絵でもありました。

一見すると面白い騙し絵ですが、身分の高い人々への風刺でもあったのです。宮廷という、貴族だらけの場所に居ながらそんな風刺を表現したのは、かなり肝が据わっていますね。[1]

 

死後、貴族になる

上記のような小さな事件もありましたが、彼の献身的な仕事への評価が変わらなかったようです。

1593年、66歳になるまで宮廷画家を務め続け、その一年前にも神聖ローマ皇帝ルドルフ2世の肖像を完成させました。この絵は今なお代表作の一つとされる程で、最晩年にもかかわらず衰えを感じさせない素晴らしさです。

彼の生涯にわたった素晴らしい仕事を評価した皇帝は、アルチンボルドと彼の家族に貴族の位を与えるという、最高の名誉でもって称えたのです。[3]

 

アルチンボルドはステンドグラスからパーティ演出まで、さまざまな分野で活躍しながらだまし絵を描き続けました。当時でもこのユニークな作風は大人気で、彼をまねて似たような絵を描く画家が何人もいたほどです。

死後は長い間忘れられてしまいましたが、ダリなどのシュルレアリスムの時代、19〜20世紀にも再び、新しいアーティストに大きな影響を与えました。

時代を何年も先取りしていた、まぎれもない天才だったのです。

 

参考資料

[1] Elhard, K. C. (2005). "Reopening the Book on Arcimboldo's Librarian". Libraries & Culture. 40 (2): 115–127. doi:10.1353/lac.2005.0027.

[2] giuseppe-arcimboldo.org (2002-2017) Giuseppe Arcimboldo The Complete Works. Retrieved from: https://www.giuseppe-arcimboldo.org/ [2021年3月31日アクセス]

[3] セッケル, アル (Seckel, Al)著 坂根厳夫訳(2008) 錯視芸術の巨匠たち: 世界のだまし絵作家20人の傑作集 創元社 p.p.19 - p.p.20

 

 

画像引用元

画像1. ジュゼッペ・アルチンボルド.1590-1591.
ウェルトゥムヌスとしての皇帝ルドルフ2世.
https://ja.m.wikipedia.org/wiki/ウェルトゥムヌスとしての皇帝ルドルフ2世像#/media/ファイル%3APorträtt%2C_Rudolf_II_som_Vertumnus._Guiseppe_Arcimboldo_-_Skoklosters_slott_-_87582.jpg

画像2.ベルナルディーノ・ルイーニ.1490-1533.
ビアッジオの肖像画.
https://www.britishmuseum.org/collection/object/P_1895-0915-767

画像3.ジュゼッペ・アルチンボルド(下絵).1558.聖母の御眠り.https://cardiac.exblog.jp/26946645/

画像4.ジュゼッペ・アルチンボルド.1563.
四季.
http://aworldofartthroughvisualexploration.blogspot.com/2012/03/giuseppe-arcimboldo.html?m=1

画像5.ジュゼッペ・アルチンボルド.1566.司書
https://www.wikiart.org/en/giuseppe-arcimboldo/the-librarian