作品に作品で会話する!パラトリエンナーレのBOOK PROJECT

BOOK PROJECT「そのうち届くラブレター〜わかりあうことの不可能さと、あきらめないことについての考察〜」では、

一冊の中に6名の作家による作品からインスピレーションを受け、8名の作家が感じたメッセージをアートで表現する。粘土の像に詩で反応したり、写真に彫刻や料理で対応するなど、様々なジャンルの多様なコンビネーションが見られる。市役所では一部の作品が展示され観客に配布されるほか、オンラインでは音声付きで配信される。


① 山本高之《悪夢の続き》

一人が見た悪夢の続きを1人の聴き手が想像する。作家自身によれば作品は一貫して、他人は理解できないという「コミュニケーションにおける不可能性」を前提に、「その先を想像するところから始まるものが多い」そうだ。今回も夢という極めて個人的な話を語り、他者がそこからハッピーエンドをつくり出し、言葉を超えた関係性を探る。

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応答1: 松本美枝子《いつか 私も みたいもの》

自分に「見せたいと思う風景」を様々な間柄の人々に問う。そしてその提案から想像した風景を探しにいくことでその人々の中のイメージを写真にしようと試みる。


応答2: 中川美枝子 《蓋の向こうからあなたへ》

視覚障害者とつくる美術鑑賞ワークショップ」のスタッフでもある彼女はコミュニケーションの中での自意識のあり様を、文章を書くことで考える。《蓋の向こうからあなたへ》では、他人が見る自分と本来の自分の姿が異なっている可能性があっても、自分を完全にさらけ出すよりも求められる自分であることを選ぶ、と人間関係の中での自分を語る。

(中川美枝子《蓋の向こうからあなたへ》から引用)


② 鎌江一美(やまなみ工房)《タキシードを着たまさとさん》

やまなみ工房の施設長、山下完和(まさと)への想いを彼の粘土像を作ることで表現し続けている。本の中にはやまなみ工房や作品制作の様子も収録される。

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応答: 柏木麻里《いつも、いつでも》

鎌江さんの作る像に、詩で応答する。「いつも、いつでも/坤」は粘土で像を作りながら強く想う作家の姿が想像できるような、幸せと切なさの同居する詩。

「わたしが/さわっているのは/幸せになりかた」(柏木麻里「いつも、いつでも/坤」冒頭から引用)


③ 井口直人(さふらん生活園)《無題》

毎日同じ時間に、施設やコンビニのコピー機で制作された作品。施設職員との会話から色を選び、スキャナー台に自分の手や顔、物を置き、時にスキャナーと共に自身の体を動かしたりしながら独特の方法でコピーする。

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応答1:船越雅代  《痕跡》

料理家兼アーティスト。コピー機を活用して新たな色や模様を作り出す作品制作を実際に見た船越さんは、薄くスライスされた野菜を重ね、色彩豊かな料理を作って応答する。


応答2: 金氏徹平 《白地図》シリーズ

現代アーティスト金氏さんは、20年近く続けている《白地図》シリーズで応答する。コピー機と身体の両方を利用した「人工的な自然現象」とも言える方法で作品にする制作方法には「大きな流れとしての身体性、時間、価値観などを揺さぶる可能性があるのではないか?その点において共通点はないだろうか」と考える(金氏徹平のテキストより)


④川戸由紀《無題(舞台シリーズ)》

子供番組のショーを元に大量に絵を描き、テレビ番組を絵の山に変換する。キャラクターや舞台を観て、一つ一つの場面ごとに多くの絵を描き出す。

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応答:横山裕一《ベビーブーム「花火」》

漫画を活用するアーティスト。場面ごとに絵を描く作品に応答し《ベビーブーム》の新作を制作。花火とそれを見る2人が、流れる時間を表す手段として選ばれた漫画の中に描かれる。


⑤リ・ビンユアン《画板 100 × 40》《橋が壊れるまで》

最も注目を浴びる中国若手アーティストの一人。作品の一つは激しい濁流に向かって画板を掲げ続ける《画板 100×40》。もう一つの、宙返りで重力を与え橋が倒れるまで待つ《橋が壊れるまで》は故郷で撮り続けて9年間になる。自分の内面を見つめるような気持ちで撮影され、立ち向かう力や孤独、もしくはその力との一体感をも感じる作品は「社会と個人の関係」を表現しているという。

https://bombmagazine.org/articles/the-river-of-time-li-binyuan-interviewed/

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応答1:華雪《線を引く―― 「一」を書く》

書家の華雪さんが応答。一定の行為を繰り返すパフォーマンスを見て、仮の線を引いて確かめ、再び新たな一本を引くことで「自分が置かれている〈場〉を確かめようとしているのではないか」と受け取り、漢字の「一」を繰り返し書いた作品を制作した。

華雪《線を引く――「一」を書く》テキストより)


応答2: 磯子区障害者地域活動ホーム + 飯塚聡(映像作家)《響きとこだま》

濁流の中画板を支え続ける《画板 100 × 40》に対し、

磯子区障害者地域活動ホーム (通称: いそかつ)の人々が思い思いの方法で応えたものを撮影した映像作品が応答。

 


⑥ 杉浦篤(工房集)《無題》

作者は撮った写真を日常的に何度も鑑賞し、その時間は心を落ち着ける大切な時間であるという。そうして幾度も撫でられ古びた写真は大切な記憶への想いをそのまま体現するようで、その背景を知らずとも胸を打たれる。簡単に写真を撮り削除できる現代の中でノスタルジックな輝きを放っているようだ。http://kobo-syu.com/artists/杉浦篤/

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応答: dj sniff

《消されることで共振する記憶の手前にあるもの 杉浦篤の作品への応答》

擦り切れた杉浦さんの写真を、DJである作者は活動の中で擦り切れていってしまうレコードになぞらえる。

カッターと紙ヤスリ、消しゴムを使ってレコードを削ることで生み出される音を新しい作品として発表する。

 


応答シリーズではないが、トリエンナーレの上映作品も視聴でき、pdf版ブックにも内容が語られる。それが↓

ジェス・トム『Me, My Mouth and I』

映画『Me, My Mouth and I』はある劇を演じるまでのリサーチから制作の裏側に迫るドキュメンタリー。その演劇がサミュエル・ペケット作の演劇台本『わたしじゃない』。「口」役が断片的で理解の困難な言葉を無言の「聴き手」役に対し素早く発し続ける。「口」役として演じる作者ジェス・トム自身が一人の表現者として障害と表現に向き合っていく。

( by 田中 みゆき

https://bookproject.paratriennale.net/assets/data/yokopara2020_book.pdf p.162より引用)

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ヨコハマ・パラトリエンナーレ BOOK PROJECTの参加アーティストは以上です。いかがだったでしょうか?

筆者は作品を直接見ていませんが、作家の考えを取り込んだ上でのみごとな作品の呼応には感動を覚えました。オンラインでも充分に伝わる彼らの想いをどこにいても視聴できるのはありがたいですね。

配信、ブックダウンロードリンク

オンライン配信やウェブサイトはこちら!

https://bookproject.paratriennale.net/

ではBpdf版OOK PROJECTの無料ダウンロードとプロジェクト内の映像、音声作品を鑑賞できる。

映画『 Me, My Mouth and I』視聴

視聴期限

"Me, My Mouth and I: 2020年11月24日まで(コア期間の1週間のみ公開)

リ・ビンユアンの映像作品: 2021年3月31日まで

おしゃべり対話鑑賞(第1部): 2021年11月17日まで

" (https://bookproject.paratriennale.net/より)